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逃げ水

帰らぬ理由があるわけではなく
帰る途がみつからないまま
生まれた洲は幻の中に
暮らす町は夢の底に

 遠くで聞こえる雷
 夕立の足音近づく
 稲妻が天を駆け上る
 夏草燃える線路の向こうで
 長い髪束ねた君が手を振る

振り返ると道は陽炎の中に
行く手を示す標は逃げ水
見慣れた景色に出口は無くて
目覚めれば明日に迷い込んできた

 遠くで聞こえる雷
 夕立の足音近づく
 稲妻が天を駆け上る
 夏草燃える線路の向こうで
 長い髪束ねた君が手を振る
 長い髪束ねた君が手を振る


 数年前、金滋英という在日韓国人3世の高校生と番組を作っていたとき、この話しをした。すると彼女は、宮沢りえを利発にしたような顔をひきしめて、“私が線路の向こうで手を振ってあげましょうか?”と言った。生まれた地にもその歴史にも手を振れない私が、はじめてひそかに手を振る相手をみつけたような気がした。在日である彼女も、逆の立場から同じ思いを抱いて生きていたのかもしれない。(武藤直路「50年後の長春で」『新博物館態勢 満洲国の博物館が戦後日本に伝えていること』、名古屋市博物館、1995年9月9日、13頁。)

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